新リース会計基準の適用が目前に迫り、経理担当者や経営層の方々は対応の準備を進めていることでしょう。本記事では、国際的な会計基準であるIFRS第16号との整合性を図るために導入される新リース会計基準について、いつから適用されるのか、そして実務にどのような影響があるのかを徹底解説します。この記事を読めば、最大の変更点である「オペレーティングリースの原則オンバランス化」が財務諸表(BS・PL)や経営指標に与えるインパクトから、担当者が今から準備すべきことまで、図解を交えて具体的に理解できます。新基準へのスムーズな移行に必要な知識がすべて手に入ります。
新リース会計基準とは そもそも何が変わるのか
新リース会計基準とは、企業会計基準委員会(ASBJ)が公表したリースに関する新しい会計処理のルール案です。これまで多くの企業で費用処理されてきたリース契約について、その会計処理が大きく見直されます。最大の変更点は、これまでオフバランス処理が可能だったオペレーティング・リースを含め、原則としてすべてのリース契約を資産・負債として貸借対照表(BS)に計上(オンバランス化)するという点です。これにより、企業の財務状況の見え方が大きく変わるため、経理担当者だけでなく経営層も内容を正しく理解しておく必要があります。
これまでのリース会計基準との違い
現行の日本の会計基準では、リース契約は「ファイナンス・リース」と「オペレーティング・リース」の2種類に分類されてきました。ファイナンス・リースは実質的に資産を購入したのと同じと見なされ、資産・負債として計上されます。一方、オペレーティング・リースは単なる賃貸借契約と見なされ、支払うリース料を費用として処理するだけで、貸借対照表には計上されませんでした(オフバランス処理)。
新リース会計基準では、この区分が原則として廃止され、借手の会計処理が一本化されます。具体的な違いを以下の表で確認しましょう。
| 項目 | これまでの会計基準 | 新リース会計基準(案) |
|---|---|---|
| リースの分類(借手) | ファイナンス・リースとオペレーティング・リースに分類 | 原則としてすべてのリースを単一のモデルで会計処理(分類の廃止) |
| ファイナンス・リースの会計処理 | リース資産とリース債務を計上(オンバランス) | 「使用権資産」と「リース負債」を計上(原則オンバランス) |
| オペレーティング・リースの会計処理 | 支払リース料を費用として処理(オフバランス) | |
| 損益計算書(PL)への影響 | ファイナンス:減価償却費と支払利息を計上 オペレーティング:支払リース料を計上 | 減価償却費と支払利息を計上 |
このように、新基準が適用されると、これまで費用処理していたコピー機のリースや社用車のカーリース、オフィスの賃貸借契約なども、一定の要件を満たすものはすべて資産・負債として計上する必要が出てきます。
なぜ今リース会計基準が変更されるのか IFRS第16号との関連性
リース会計基準が大きく変更される背景には、国際的な会計基準との整合性を図る(コンバージェンス)という大きな目的があります。具体的には、国際財務報告基準(IFRS)の「IFRS第16号リース」や米国会計基準がすでに同様の変更を先行して導入しています。
これまでの会計基準では、特にオペレーティング・リースが貸借対照表に計上されない「オフバランス」であったため、以下のような問題点が指摘されていました。
- 投資家などの財務諸表利用者が、企業が抱える実質的な負債の全体像を把握しにくい。
- 多額のリース契約を抱える企業の実態が財務諸表に反映されず、企業間の比較可能性が損なわれる。
こうした問題点を解消し、グローバル基準に合わせることで、企業の財務状況の透明性を高め、投資家がより適切な意思決定を行えるようにすることが、今回の基準変更の主な狙いです。つまり、これまで「隠れた負債」と見なされることもあったリース契約の実態を、財務諸表に正しく反映させようという世界的な潮流に日本も追随する形となります。
新リース会計基準はいつから適用される?
新しいリース会計基準の導入にあたり、経理担当者や経営者が最も気になる点の一つが「いつから適用されるのか」というスケジュールでしょう。ここでは、企業会計基準委員会(ASBJ)が公表した公開草案に基づき、原則的な適用開始時期と早期適用の可否について詳しく解説します。
原則的な適用開始時期
日本の新リース会計基準は、原則として2026年4月1日以降に開始する事業年度の期首からの適用が予定されています。これは、2024年5月に公表された企業会計基準公開草案第73号「リースに関する会計基準(案)」で示された方針です。
具体的に、一般的な3月決算の企業を例に見てみましょう。
| 決算期 | 適用開始事業年度 | 対象となる決算 |
|---|---|---|
| 3月31日 | 2026年4月1日~2027年3月31日 | 2027年3月期決算から |
上記のように、3月決算の企業であれば、2027年3月期の年度決算から新基準への対応が必須となります。自社の決算期に合わせて、いつから準備を始めるべきか、具体的な計画を立てることが重要です。
早期適用は可能か
新リース会計基準では、企業の準備状況に応じて、前倒しで基準を適用することも認められる見込みです。公開草案では、2025年4月1日以降に開始する事業年度の期首から早期適用が可能とされています。
例えば、国際財務報告基準(IFRS)を適用している海外子会社との会計処理を早期に統一したい場合や、システム対応の準備が早く整った企業などは、早期適用を検討する価値があるでしょう。3月決算の企業が早期適用を選択した場合のスケジュールは以下の通りです。
| 決算期 | 適用開始事業年度 | 対象となる決算 |
|---|---|---|
| 3月31日 | 2025年4月1日~2026年3月31日 | 2026年3月期決算から |
早期適用を選択する場合、原則適用よりも1年早く新基準に対応する必要があります。そのため、会計方針の決定や業務フローの見直し、システム改修などを前倒しで進める必要があります。自社のリソースや経営戦略を考慮した上で、慎重に判断することが求められます。
【図解】新リース会計基準の具体的な変更点3つ
新しいリース会計基準は、特にリース契約の「借手」側の経理実務に大きな変革をもたらします。これまで費用処理で済んでいた契約が資産として扱われるなど、財務諸表への影響は避けられません。ここでは、特に重要な3つの変更点を図や表を交えながら、わかりやすく解説します。
変更点1 すべてのリースを原則資産計上(オンバランス化)
新リース会計基準における最大の変更点は、借手が行うすべてのリース取引について、原則として資産および負債を計上(オンバランス化)することです。これまでは、リースの種類によって会計処理が異なりましたが、新基準ではこの区別がなくなります。
具体的には、リース契約によって得られる「資産を使用する権利」を「使用権資産」として資産に計上し、将来支払うべきリース料の総額を「リース負債」として負債に計上する「使用権モデル」が採用されます。
使用権資産とリース負債とは
オンバランス化に伴い、新たに「使用権資産」と「リース負債」という勘定科目が用いられます。これらは、リース契約の実態を財務諸表に正しく反映させるためのものです。
| 勘定科目 | 内容 | 計上額の概要 | 計上後の会計処理 |
|---|---|---|---|
| 使用権資産(資産) | リース期間にわたり、対象となる資産(原資産)を使用する権利。 | リース負債の当初計上額に、リースに直接関連する初期費用などを加えて算定。 | 原則として、リース期間にわたって減価償却を行います。 |
| リース負債(負債) | 未払リース料総額を、一定の割引率で割り引いた現在価値。 | 将来支払うリース料の総額を現在価値に換算して算定。 | リース料の支払時に、利息の支払いと負債の返済として処理します。 |
この処理により、企業がリース契約によってどれだけの資産利用権を持ち、どれだけの支払い義務を負っているのかが、貸借対照表(BS)上で明確になります。
オペレーティングリースとファイナンスリースの区別がなくなる
現行の会計基準では、リース取引を「ファイナンス・リース」と「オペレーティング・リース」の2つに分類し、会計処理を分けていました。
- ファイナンス・リース:実質的に資産を購入したとみなされるリース。資産・負債として計上(オンバランス)。
- オペレーティング・リース:上記以外のリース(一般的な賃貸借契約に近いもの)。支払うリース料を費用として処理(オフバランス)。
新リース会計基準では、借手においてこの区別が原則として撤廃されます。これにより、これまで費用処理(オフバランス)が可能だったオペレーティング・リースも、使用権資産とリース負債として資産・負債計上(オンバランス)の対象となります。
| 現行基準 | 新基準(借手) | |
|---|---|---|
| ファイナンス・リース | オンバランス(資産・負債計上) | 原則すべてオンバランス(使用権モデル) |
| オペレーティング・リース | オフバランス(費用処理) |
この変更は、これまでBSに計上されていなかったリース契約が可視化されることを意味し、企業の財務実態をより正確に把握できるようになります。
変更点2 貸手の会計処理の変更点
借手の会計処理が大きく変わる一方で、リースを提供する「貸手」側の会計処理については、現行の会計基準が基本的に維持されます。したがって、貸手は引き続きリース取引をファイナンス・リースとオペレーティング・リースに分類し、それぞれに応じた会計処理を行います。
これは、国際的な会計基準であるIFRS第16号の考え方を踏襲したものであり、貸手側の実務への影響は借手側に比べて限定的となる見込みです。
変更点3 簡便的な取り扱いの導入
すべてのリースを資産・負債計上すると、企業の経理担当者の事務負担が大幅に増加する可能性があります。そこで、新リース会計基準では、重要性が乏しい特定のリース取引について、会計処理の負担を軽減するための簡便的な取り扱い(特例)が認められています。
この特例を適用した場合、使用権資産やリース負債を計上せず、従来通りリース料を費用として処理(賃貸借処理)することが可能です。簡便的な取り扱いには、主に「短期リース」と「少額リース」の2つがあります。
短期リースの特例
短期リースの特例は、その名の通り、リース期間が短い契約に適用できます。
- 対象:リース期間が12ヶ月以内であるリース契約。
- 注意点:契約に割安購入選択権(BPO)が含まれている場合は、この特例の対象外となります。
- 具体例:数ヶ月間だけ利用するイベント用の機材レンタル、1年未満のオフィス機器の短期レンタルなど。
この特例を選択適用することで、短期間のリース契約までオンバランス化する手間を省くことができます。
少額リースの特例
少額リースの特例は、リース対象となる資産そのものの価値が低い場合に適用できます。
- 対象:リースする資産(原資産)が少額であるリース契約。この判断は、個々のリース契約ごとではなく、その資産が新品であった場合の価額に基づいて行われます。
- 金額の目安:日本の基準案では具体的な金額は明示されていませんが、参考とされるIFRS第16号では「新品時の価額が5,000米ドル以下」という例が示されています。また、日本の公開草案では、重要性の乏しいリース契約の例として「リース料総額が300万円以下のリース取引」が挙げられており、実務上の判断基準の一つとなり得ます。
- 具体例:パソコン、タブレット、コピー機、オフィス用の机や椅子など、個々の価値が低い資産のリース。
企業は、これらの簡便的な取り扱いを適用するかどうかを、会計方針としてリース資産の種類ごとに選択することができます。
新リース会計基準が実務に与える影響
新リース会計基準の適用は、単なる会計処理の変更にとどまりません。企業の財務諸表や経営指標に大きな影響を及ぼし、結果として資金調達や経営戦略の見直しが必要になる可能性もあります。ここでは、実務に与える具体的な影響を3つの側面から詳しく解説します。
財務諸表(BS・PL)へのインパクト
新リース会計基準の最も大きな影響は、これまでオフバランス処理が可能だったオペレーティング・リースが原則としてオンバランス化(資産・負債計上)されることです。これにより、貸借対照表(BS)と損益計算書(PL)の表示が大きく変わります。
特に、これまで費用として処理していた賃貸オフィスや店舗、社用車などの契約が、BS上で「使用権資産」と「リース負債」として計上されることになります。この変更がBS、PL、そしてキャッシュ・フロー計算書(CS)に与える影響を以下にまとめました。
| 財務諸表 | 変更前(現行基準のオペレーティング・リース) | 変更後(新リース会計基準) |
|---|---|---|
| 貸借対照表(BS) | オフバランス(資産・負債に計上されない) | オンバランス(「使用権資産」と「リース負債」を両建てで計上) →総資産と総負債がともに増加する |
| 損益計算書(PL) | 支払リース料を費用計上(定額が一般的) | 「減価償却費」と「支払利息」を費用計上 →費用が前倒しで計上される傾向がある(当初は支払利息が大きく、徐々に減少するため) |
| キャッシュ・フロー計算書(CS) | 支払リース料を営業キャッシュ・フローに計上 | リース料支払額を元本返済部分と利息支払部分に分解 →元本返済額は財務CF、利息支払額は営業CF(または財務CF)に計上され、営業CFが改善して見える |
このように、会計処理の変更によって総資産が膨らみ、費用の性質も変わるため、企業の財務内容の見え方が大きく変化します。
経営指標やKPIへの影響
財務諸表の表示が変わることで、それを基に算出される経営指標やKPI(重要業績評価指標)も影響を受けます。特に注意が必要な指標は以下の通りです。
| 経営指標 | 計算式の変化 | 影響 | 考えられる実務上の課題 |
|---|---|---|---|
| 自己資本比率 | 自己資本 ÷ 総資産(増加) | 低下 | 企業の財務健全性の評価が低下する可能性がある |
| 負債比率(D/Eレシオ) | 有利子負債(増加) ÷ 自己資本 | 悪化 | 格付け機関や金融機関からの評価に影響が出る可能性がある |
| 総資産利益率(ROA) | 当期純利益 ÷ 総資産(増加) | 低下 | 資産効率の評価が低下し、投資家からの見方が変わる可能性がある |
| EBITDA | 営業利益 + 減価償却費(増加) | 増加 | M&Aなどにおける企業価値評価の前提が変わる可能性がある |
これらの指標の変化で特に注意すべきなのが、金融機関との借入契約に含まれる「財務制限条項(コベナンツ)」です。自己資本比率や負債比率などの特定の指標を一定水準以上に保つことが契約条件になっている場合、会計基準の変更が原因で意図せず抵触してしまうリスクがあります。事前に金融機関と協議しておくことが重要です。
経理担当者が準備すべきこと
新リース会計基準への対応は、経理部門だけで完結するものではありませんが、中心となって進める必要があります。適用開始に向けて、経理担当者が準備すべきことをステップごとに解説します。
- ステップ1:社内のリース契約の網羅的な把握
まずは、自社が締結している全てのリース契約をリストアップし、内容を把握することから始めます。これまで費用処理していた不動産の賃貸借契約などもリースの定義に含まれる可能性があるため、契約管理部門と連携し、対象範囲を正確に特定する必要があります。
- ステップ2:会計方針の決定
新基準で認められている「短期リース」や「少額リース」の簡便的な取り扱いを適用するかどうか、社内の方針を決定します。どの程度の金額を「少額」とするかなど、具体的な基準を設けておくことで、その後の実務がスムーズになります。
- ステップ3:リース資産・負債の計算とシステム対応
特定したリース契約について、リース期間やリース料、割引率などを基に「使用権資産」と「リース負債」の金額を算定します。契約数が膨大な場合、Excelなどでの手作業管理は現実的ではありません。リース資産管理に特化した会計システムの導入や、既存システムの改修を検討する必要があります。
- ステップ4:関係部署との連携と情報共有
新基準の影響は、経理部門だけでなく全社に及びます。財務諸表への影響については経営層や財務部門へ、今後の契約内容の検討については法務部門や各事業部門へ、事前に情報共有と連携を図ることが不可欠です。特に、設備投資や出店の意思決定にも影響を与えるため、計画段階から新基準を考慮に入れる体制を構築することが求められます。
まとめ
本記事では、新リース会計基準の概要から具体的な変更点、実務への影響までを解説しました。新リース会計基準における最大の変更点は、これまでオフバランス処理が可能だったオペレーティングリースを含め、原則としてすべてのリース契約を資産(使用権資産)と負債(リース負債)として貸借対照表に計上(オンバランス化)する点です。
この会計基準の変更は、国際的な会計基準であるIFRS第16号との整合性を図り、企業の財務状況の透明性と比較可能性を高めることを目的としています。オンバランス化により、企業の総資産や負債が増加し、自己資本比率やROA(総資産利益率)といった経営指標に大きな影響が及ぶ可能性があります。
経理担当者は、新基準の適用開始に備え、自社が締結しているすべてのリース契約を洗い出し、影響額を試算することが急務です。また、業務負担を軽減する「短期リース」や「少額リース」といった簡便的な取り扱いの適用可否を検討し、会計方針の決定や業務フローの見直し、システム対応などを計画的に進めていく必要があります。